●ボルボックスってどんな生物?
ボルボックス(Volvox)は、淡水産の微小緑藻です。葉緑体をもっていて光合成をします。
1000個から2000個の細胞からなり、ほぼ球形をしています。大きさは0.3mm程度にまでなります。
外側の細胞は鞭毛を持っていて、全体としてゆっくり回転しながら動きます。細胞は網目状につながっており、内部に娘群体が作られます。娘群体は親群体内部で成長し、やがて、親群体の中から出てきます。写真のボルボックスのように娘群体の内部にさらに孫群体を作るものもあります。普段はこのように無性生殖によって増えますが、環境が悪くなると卵細胞と精子を作って有性生殖を行います。
1000個もの細胞をもつのに「多細胞」と言わないのは、細胞の分化の程度が低いからです。娘群体を作る生殖細胞と外側の栄養細胞の大きく2種類の細胞があるだけです。しかし、ボルボックスにはそれで、十分のようにみえます。
愛知県内の水田の水路などに普通に見られます。大量に発生したときには、プランクトンネットによる1回の採集で、ペーパークロマトグラフィーの試料とするほど採れたこともありました。
「微生物の観察」では、その美しさから生徒に最も人気がありますが、室内で培養するのは、なかなか手間がかかります。滅菌した田んぼの土にハイポネックスを加えた「二層培地」でも増えますが、ボルボックス専用に開発されたVT培地(Volvox tertius 培地?)を用いると比較的安定して培養することができます。ただし、VT培地を作るのには多くの試薬が必要です。それでも、3日から1週間に1回は新しい培地に植え継いでいかないと死滅してしまいます。微細緑藻にやられてしまうことも多いです。
愛知県津島市の水路で採取したボルボックス
★実は写真の中央に写っているボルボックスは、ちょっと変わっています。ボルボックスを長年研究している東京大学の野崎久義先生にこの写真を見せたら、「どこで採取したの? 今すぐにも採りに行きたい。新種かもしれない」と言われました。どこが変わっているか分かりますか?
●何で Volvox ML なの?
ボルボックスの魅力は、何と言ってもその「完成度の高さ」でしょう。高校生物の教科書では、単細胞のクラミドモナスと比較により、単細胞生物と多細胞生物との中間の「細胞群体」の例として紹介されている場合も多いです。 しかし、移行段階というわけではなく、それ自身が完結しており、ひとつの「小宇宙」を形成しているようにも見えます。あまりにも完成度が高く、それ以上進化することができず(する必要がない)、「進化の行き止まり」と評されることもあります。ということは、極めて調和の取れた美しい形態をもっているということになります。
私(西郷)は日頃から生徒に、「生物に学べ! ゾウリムシの瞬発力、アメーバの忍耐力、ボルボックスの調和」と言っております。そうしたら、なんとクラスのTシャツに採用されてしまいました。
★(Tシャツ屋が間違えて、ゾウムシになってしまい、「リ」が吹き出しになってしまいました。業者のミスということで、Tシャツ代はタダになった。)
このMLの名称には、生物教育についても、Volvox のように、バランス感のある調和のとれたものとして発展していってほしいとの願いが込められています。 (西郷)