生物教育のさらなる発展をめざして Volvoxメーリングリスト

  生物学関連の「最近の話題」2025

毎月はじめの挨拶メールに掲載している「最近の話題」を集めました。
リンク先は当時のもので切れている場合もあります。論文はタイトルで検索するとたいてい出てきます。

2025年 8月
1.iPS細胞からつくった精子・卵子の受精を容認
2.古代エジプト人の全ゲノムを初めて解読
3.オニヒトデのコミュニケーションの仕組みを解明
4.DNA解析によりスズメバチの多様な食餌の習慣が明らかに
5.日本初、翼竜類の新属新種命名
6.9/6日本動物学会2025名古屋大会・一般公開行事
2025年 7月
1.ヒトとチンパンジーのDNAの違いは15%
2.人間の乱獲でタラが小型に進化?
3.カクレクマノミは猛暑になると体が縮む
4.白亜紀の海はイカだらけ
5.ヒトの傷、他の動物より治りが3倍遅い
6.サラマンダーの四肢再生に特定の酵素が関与
7.赤ちゃんに優しく語りかけるのはヒトだけ?
8.琵琶湖の「ビワマス」は新種だった
9.中国の竜人はデニソワ人?
2025年 6月
1.三毛猫の毛色を決める遺伝子の解明
2.トランスポゾンによる進化の仕組みを発見
3.「構造色」で輝く海藻の新た種の発見
4.猿橋賞に名古屋大の上川内あづさ教授
5.古代DNA展-日本人のきた道- 名古屋でも開催
2025年 5月
1.メンデルのエンドウ豆に関する100年来の遺伝学の謎がついに解明
2.被子植物の種子に栄養を送るしくみの解明
3.パーキンソン病の治療にiPS細胞
4.6種の類人猿の完全なゲノム配列を公開
5.細菌の酸素代謝は地球の大酸化イベントより前に出現した
6.太陽系外に生命由来の化学物質?
7.ボノボのコミュニケーションは人間の言語に近い?
8.デニソワ人は台湾にもいた
9.向精神薬による汚染は野生のサケの回遊行動を変える
10.1万3000年前に絶滅した「ダイアウルフ」を再現!?
11.国立感染症研究所・感染研市民公開講座の動画アーカイブの公開
2025年 4月
1.「光遺伝学」で視力回復へ
2.近畿にアマガエルの境界線
3.メダカの産卵は真夜中から始まる
4.アボカドの栽培は7500年前から
5.温暖化で泥炭地の炭素吸収能力が向上
6.本の紹介:ウミウシを食べてみた
2025年 3月
1.人間の脳には「スプーン1本分」のナノプラスチックが
2.クマノミはなぜイソギンチャクに刺されないのか?
3.鳥類の起源 2000万年近くさかのぼる?
4.「ゆで卵の作り方」が論文に
5.タコの腕はそれぞれ独立して動いている
6.太古の昔、生命を育んだ海は「緑色」だった!?
2025年 2月
1.紅茶のティーバッグから大量のナノプラスチック
2.植樹で夜間の気温が上がる場合もある?
3.新しい解析方法でゲルマン民族の移動の詳細がわかった
4.都市の光はオウトウショウジョウバエの繁殖を助長する
5.アウストラロピテクスは肉を大量には食べていなかった
7.~2/24「鳥展」
8.本の紹介:世界一シンプルな進化論講義
9.本の紹介:進化論の知られざる歴史
10.本の紹介:動物関係の本4件
2025年 1月
1.ウイルスの増殖を動画で見る
2.新型コロナウイルスの細胞内増殖機構を解明
3.抗菌薬が効かない「耐性菌」への対策への第一歩?
4.タコは体色変化で大量のエネルギーを消費する
5.「種を吐く」テッポウウリのメカニズム
6.梅毒はアメリカで発生しコロンブス時代にヨーロッパに持ち込まれた
7.現生人類に流入したネアンデルタールゲノムの歴史
8.150万年前のヒト科の種の共存を示す証拠


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2025年 8月
1.iPS細胞からつくった精子・卵子の受精を容認
2.古代エジプト人の全ゲノムを初めて解読
3.オニヒトデのコミュニケーションの仕組みを解明
4.DNA解析によりスズメバチの多様な食餌の習慣が明らかに
5.日本初、翼竜類の新属新種命名
6.9/6日本動物学会2025名古屋大会・一般公開行事
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1.iPS細胞からつくった精子・卵子の受精を容認
 内閣府の生命倫理専門調査会は、ヒトのiPS細胞など幹細胞からつくった卵子や
精子から受精卵(胚)をつくる基礎研究を認める報告書を大筋でとりまとめた。こ
れまで、国の指針で禁じられていたが、研究目的に限り容認されることになる。受
精卵を使う研究は不妊症や先天性疾患の原因解明などに役立つことが期待され、不
妊治療で使われずに余った受精卵(余剰胚)が使われてきた。今回、調査会がまと
めた報告書は、幹細胞でつくった卵子や精子を受精させる研究について、受精直後
に胚で起きていることの解明に有用で、遺伝性疾患の研究や不妊治療の開発などに
つながる期待があるとして容認。ただ、胚を子宮に移せば、「『人』として誕生し得
る存在」となることから、培養期間は14日まで、子宮への移植は禁止した。目的
も生殖補助医療や、遺伝性疾患の解明など一部の基礎研究に限る。技術的には、女
性由来のiPS細胞から精子を作ることも可能なので、女性同士のカップルの間で受
精卵を作って子どもを作ることも、理論的には可能である。
内閣府 生命倫理専門調査会(第159回) 議事次第
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/life/haihu159/haihu-si159.html

2.古代エジプト人の全ゲノムを初めて解読
 4800年前の古代エジプト人の全ゲノムが初めて解読され、顔の復元や目の色や
職業などの情報が得られたという。これまで、古代エジプト人のゲノムが部分的に
解読された古代エジプト人はたった三人しかおらず、DNAの保存状態の悪さが依
然として大きな課題となっていた。今回の古代エジプト人の遺体(男性)は、1902
年、英国の考古学者たちが、カイロの南約240kmのヌワイラートにあるネクロポ
リス(「死者の町」を意で墓地を指す)で、石灰岩の丘陵の岩窟墓の中から膝を抱
えた姿勢で陶器の葬儀用の壺に封印された状態で発掘された。遺体は英国のリバプ
ールで保管されていた。リバプール・ジョン・ムーア大学〔英国〕の研究チーム
によって、放射性炭素年代測定の結果は紀元前2855〜前2570年と示され、歯から
抽出した無傷のDNAの分析がされた。ゲノムは完全なものであったという。彼の
骨格には、加齢に伴う関節炎、関節と椎骨の摩耗、頻繁にしゃがんだり体を傾けた
りすることによる筋肉の緊張の痕跡が見られ、研究チームはこれらのパターンか
ら、彼の職業は肉体的に過酷な陶工ではなかったかと推定している。
Whole-genome ancestry of an Old Kingdom Egyptian
Nature (2025) Published: 02 July 2025  Open access
https://www.nature.com/articles/s41586-025-09195-5

3.オニヒトデのコミュニケーションの仕組みを解明
 インド洋や太平洋地域に広く分布するオニヒトデcrown-of-thorns starfish
(CoTS; Acanthaster cf. solaris※)は、個体数が適正に保たれている間はサンゴの
多様性を保ち、生態系の健全性を維持する役割を果たすが、爆発的に増殖すると、
サンゴ群落を壊滅させてしまう。現在、オニヒトデの対策としては、一匹ずつ手
作業で取り除いて駆除する方法が主流であるが、非常に非効率で、労働集約的で
あり、コストもかかる。そうした中、オーストラリア海洋科学研究所(AIMS)と
オーストラリアのサンシャインコースト大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)
の研究チームは、オニヒトデがその特徴的なとげを使って、繁殖期以外でもペプチ
ドを介して、互いにコミュニケーションを取っていることを発見した。オニヒトデ
のとげは防御のために使われる毒素の分泌だけでなく、さまざまなペプチドを感知
し分泌するために使用されていることが分かったという。この中のペプチドを合成
して散布したところ、オニヒトデの軌道が変化することも確認された。これらの物
質を活用することで、オニヒトデの大発生に対する効率的で安全な対策法が開発さ
れるかもしれない。
※注 学名のcf. は属名と種小名の間に入れるもので、conferの略。「同定作業の
結果Acanthaster 属のsolaris種だと思われるが、特定には至っていない」の意。
A family of crown-of-thorns starfish spine-secreted proteins modify adult conspecific behavior
iScience Volume 28, Issue 4112161 April 18, 2025 Open access
DOI: 10.1016/j.isci.2025.112161
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(25)00422-5
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2025/6/19/deciphering-starfish-communication-may-help-protect-coral-reefs

4.DNA解析によりスズメバチの多様な食餌の習慣が明らかに
 長野県や岐阜県などの郷土料理となる昆虫食「蜂の子」の材料のひとつシダクロ
スズメバチのエサをDNA分析すると、エサは324種あって昆虫やクモに加えて鳥
類や哺乳類などの脊椎動物が含まれることを岡山大学や神戸大学の研究チームが明
らかにした。ハチを飼育したことのある経験者が、目撃情報などから脊椎動物など
多様なエサを与えてきた妥当性を裏付けており、食文化と自然の関係性を探る上で
の知見となるという。多くの蜂飼育経験者が野生下で蜂がこれらの脊椎動物を食べ
ているのを実際に観察しており、学術的知見に先んじて脊椎動物を与える飼育を実
践してきた。本研究は、こうした飼育方法の妥当性をDNA分析で裏付けることと
なった。「蜂の子」の味について、飼育経験者の 58% が「野生巣産と飼育巣産で
は味が異なる」と回答し、その理由として「与える餌の違い」が挙げられた。
Unraveling the dietary ecology and traditional entomophagy of Vespula shidai in Central Japan: Insights from DNA metabarcoding and local practices
Journal of Insects as Food and Feed  Online Publication Date: 14 May 2025
DOI:10.1163/23524588-bja10201
https://brill.com/view/journals/jiff/aop/article-10.1163-23524588-bja10201/article-10.1163-23524588-bja10201.xml?srsltid=AfmBOopGv15cDs2exRMsdf7YCCLuypQtWSa7TVhVAHtMB5qF9CO1c58s
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1385.html
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20250523-3.pdf

5.日本初、翼竜類の新属新種命名
 日本の翼竜の記録は比較的少なく、白亜紀層からいくつかの断片標本が知られて
いるにすぎない。このたび、中国や熊本大学などの研究チームにより、熊本県上益
城郡御船町に分布する御船層群上部層(後期白亜紀)から産出していた「アズダルコ
科」の翼竜の化石について、詳細な研究が行われ、他の翼竜の頸椎骨とは特徴が異
なることから新属・新種であると判明し、Nipponopterus mifunensisと命名され
た。国内産の体化石に基づいて初めて命名された翼竜となる。アズダルコ科として
最古級の化石であり、白亜紀末のケツァルコアトルス等の大型翼竜と近縁であるこ
とが示された。
Reassessment of an azhdarchid pterosaur specimen from the Mifune Group, Upper Cretaceous of Japan
Cretaceous Research  Volume 167, March 2025, 106046
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0195667124002192
https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2025_file/release20250513.pdf

6.9/6日本動物学会2025名古屋大会・一般公開行事
 日本動物学会・名古屋大会の大会3日目に、一般公開行事が行われます。
是非お越し下さい。私は高校生ポスター発表の担当なので、主にその場所に
いると思います。
日時:9月6日(土) 10:00~16:15
場所;ポートメッセなごや第2展示館
(公開講演会のみ 交流センター3F会議ホール)
・動物学ひろば
ウーパールーパーから深海生物まで、さまざまな動物の標本や模型、紹介ポスタ
ーに加え、生きた動物も展示され、間近で観察することができます。
 https://www.zoology.or.jp/annual-meeting/2/zoology-square/
・歴史資料展示 大会実行委員会と動物学会歴史資料保存委員会合同企画
日時:9月6日(土)10:00~16:00
奈良坂源一郎《蟲魚図譜》名古屋大学博物館蔵:精緻な昆虫・魚類の彩色画(額
 装パネル)
伊藤圭介《錦窠図譜》名古屋大学附属図書館蔵:江戸末期の動物図譜を大型プリ
 ントで再現するとともに,原画像のデジタルアーカイブをQRコードでご紹介
山本時男コレクション(名古屋大学博物館蔵;展示は動物学ひろば):名古屋の
 近代生物学の研究で一時代を画した研究者、メダカ博士の研究資料・標本
協力:名古屋大学博物館・名古屋大学中央図書館
 https://www.zoology.or.jp/annual-meeting/2/drawing-exhibition/
・高校生ポスター発表
 98のタイトルのポスター発表が行われます。
 日時:9月6日(土)10:45~12:45
・一般公開講演会
 「日本独自の動物学研究を俯瞰する:尾張本草学から現代動物学へ」
 日時:9月6日(土)14:30〜16:15
 会場:ポートメッセなごや交流センター3F A会場(きんしゃち)
 講演1 戦前日本の動物学における「性」認識 – 丘浅次郎、石川千代松から戦後
  における山本時男の「性の人為的転換」へ   斎藤光(京都精華大学)
 講演2 尾張本草学の歴史的展開-伊藤圭介、奈良坂源一郎の動物図譜から実験
  発生学へ 
  溝口元(立正大学/学習院大学アーカイブズ 動物学会歴史資料保存委員会)
 講演3 名古屋地区で発展した動物学の研究 – 山本時男以降 
  田中実(名古屋大学)
  https://www.zoology.or.jp/annual-meeting/2/openlecture/


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2025年 7月
1.ヒトとチンパンジーのDNAの違いは15%
2.人間の乱獲でタラが小型に進化?
3.カクレクマノミは猛暑になると体が縮む
4.白亜紀の海はイカだらけ
5.ヒトの傷、他の動物より治りが3倍遅い
6.サラマンダーの四肢再生に特定の酵素が関与
7.赤ちゃんに優しく語りかけるのはヒトだけ?
8.琵琶湖の「ビワマス」は新種だった
9.中国の竜人はデニソワ人?
10.7/28 東京都立大学生命科学科リカレント講座[再掲]
11.現在配布・貸出可能な教材

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1.ヒトとチンパンジーのDNAの違いは15%
 ヒトとチンパンジーのDNAの違いは1%と言われてきたが、実は15%のよう
だ。5月に「6種の類人猿の完全なゲノム配列を公開」紹介したが、ヒトを含む類
人猿のゲノムを比較すると、ヒトとチンパンジーのDNAは15%違っていることが
わかったという。2000年代までは、ヒトとチンパンジーのDNA配列の98~99%
が一致することが報告され、長年にわたり広く引用されてきた。2005年にチンパ
ンジーのゲノム概要配列が発表された際にも、一塩基レベルで見たヒトとの差異は
約1.2%に過ぎないと強調されていた。この値は、「比較可能な部分(揃って配列が
読めた部分)のみを比較した値」であり、当時は解析不能であったヒトや大型類人
猿のゲノムに存在する大量の反復配列や複雑な構造を持つ領域は含まれていなかっ
た。今回、それらが詳しく解析され、それらを含めて比較すると、1%ではなく
15%であった、ということである。
Complete sequencing of ape genomes
Nature Open access Published: 09 April 2025
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08816-3

2.人間の乱獲でタラが小型に進化?
 魚の乱獲は、その種の個体数が減らすことになることは想像できるが、バルト海
のタラは数十年にわたる集中的な捕獲によって、遺伝子に変化をもたらし小型化し
た、という研究報告がドイツの研究チームから出された。1996年、タラの成魚の
体長の中央値は40cmだったが、2019年には20cmまで小さくなった。英紙「ガ
ーディアン」によると、タラの体重の中央値は、1996年の1356gだったが2019
年には272gと、約5分の1の重さに減ったとしている。また、英紙「インディペ
ンデント」によると、「かつてバルト海のタラは体長1m以上、重さは40kgあり、
この地域の漁業の基幹をなしてきた。だが、この30年間で、成長したタラでさえ
も、夕食の皿にすっぽりおさまるほどの大きさになってしまった」と報じている。
研究チームは、1996年から2019年の間にボーンホルム海盆で捕獲された152尾の
タラの耳石の骨を調べ、毎年の成長データ、タラの体長指数、遺伝情報を組み合わ
せ、25年間で、個体群に遺伝的変化があったかどうかを評価した。 その結果、成
長の早い魚と遅い魚には系統的な違いがあること、大きな体長を生みやすくする遺
伝子変異が時間の経過とともに少なくなっていることが明らかになった。つまり、
かつては遺伝的に異なる成長の早いタラと遅いタラが共存していたが、成長の早い
ゲノムを持つタラは乱獲によってバルト海から排除され、成長の早いタラが残って
しまった、いうことになる。
Genomic evidence for fisheries-induced evolution in Eastern Baltic cod
Science Advances 25 Jun 2025 Vol 11, Issue 26
DOI: 10.1126/sciadv.adr9889
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adr9889

3.カクレクマノミは猛暑になると体が縮む
 カクレクマノミは酷暑になると体が縮むことが英米の研究チームによって報告さ
れた。研究チームはパプアニューギニアのキンベ湾で2023年2~8月、野生のカ
クレクマノミ134匹(2.7~8.35センチ)の体長を1カ月おきに測定した。この期
間は調査地域で気温が過去の平均を4度上回るなど世界的に酷暑となった。海水温
も上がり、クマノミが棲む海域にあるサンゴ礁では、「白化現象」が起きた。その
結果、測定した個体の44%は1回、30%は2回以上、体長が縮んだ。1カ月の縮小
幅は5%未満が多かったが、5%以上縮んだものもいた。生息する周辺の水温との
関係を調べると、前月の水温が高いほど体が縮む傾向があったという。体が縮んだ
個体はそうでないものよりも生存率が高かったといい、チームは環境の変化に対応
する戦略の一つとみている。
Individual clown anemonefish shrink to survive heat stress and social conflict
Science Advances 21 May 2025 Vol 11, Issue 21 DOI: 10.1126/sciadv.adt7079
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt7079

4.白亜紀の海はイカだらけ
 北海道大などの研究チームが、白亜紀の海にイカがたくさんいたことを明らかに
した。イカ類は化石になりやすい骨や殻がなく、足の根元の口にある軟骨「クチバ
シ」は比較的硬いが、薄くてもろいため、これまで、解析することができなかっ
た。研究チームは約1億~7000年前の岩石35個からイカ類のクチバシ263個を
見つけ、化石を含む岩石を1ミリの1万分の1単位で削って表面を撮影することを
繰り返し、画像を積み重ねてデジタル空間に3Dで復元する装置を開発。それらの
イカを40種に分類したところ、そのうち39種が新種だった。最古の化石は約1
億年前で、これまでの記録を最大5500万年さかのぼった。また、4ミリ弱だった
クチバシの平均サイズから推定される全長は約20センチで、現代のイカとほぼ変
わらないという。アンモナイトや魚類などと比較し、個体数や体のサイズを加味し
た生物量では、白亜紀後期を通じてイカ類が最多だった。つまり、白亜紀の海はイ
カだらけだったことになる。
Origin and radiation of squids revealed by digital fossil-mining
Science 26 Jun 2025 Vol 388, Issue 6754 pp. 1406-1409
DOI: 10.1126/science.adu6248
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu6248
https://www.hokudai.ac.jp/news/2025/06/1-21.html

5.ヒトの傷、他の動物より治りが3倍遅い
 ヒトは傷の治るスピードが他の動物より3倍遅い、という研究成果が、日本の研
究チームによって発表された。チンパンジーなどの動物とヒトの傷の治るスピード
を観察したところ、ヒトだけが飛び抜けて遅いことが分かったという。霊長類の
「ヒヒ」の研究をしているチームの一人が「自分と比べて、ヒヒの傷の治るスピー
ドが速いのではないか」と感じたところが、研究の出発点であったという。20代
から90代のヒト24人、アヌビスヒヒ6匹、サイクスモンキー5匹、ベルベットモ
ンキー6匹、チンパンジー5匹、マウス8頭、ラット4頭について皮膚の傷が治る
までの速度を比較した。その結果、ヒト以外の動物は平均して1日あたり0.6ミリ
の速度で傷が治ったのに対し、ヒトの治癒速度は1日あたり約0.25ミリでした。
この原因についてはよく分かっていないが、ヒトの体毛が薄いこと、ヒトの皮膚が
厚いことが考えられるという。
Inter-species differences in wound-healing rate: a comparative study involving primates and rodents
Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences  Published:30 April 2025
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0233
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2025.0233

6.サラマンダーの四肢再生に特定の酵素が関与
 メキシコサラマンダーはウーパールーパー、アホロートルとも呼ばれ、再生能力
が高いことで知られている。米国の大学の研チームは、CYP26B1という酵素(ヒ
トにも同じものがある)がレチノイン酸の量を調整し、部位の再生を正確に促して
いることが明らかにした。さらに、四肢の大きさをコントロールする遺伝子もわか
った。四肢の再生にはレチノイン酸が大きく関わっていることは以前から知られて
いた。ヒトの体内にも存在するビタミンAの代謝物である。研究チームによれ
ば、細胞に「どこで何を作るか」を伝えているのは、このレチノイン酸の量だとい
う。ヒトを含む動物にとって、レチノイン酸は細胞の分化と成長に欠かせない。そ
の働きは胎児の発達にも重要であり、妊娠中の女性は、体内のレチノイン酸濃度に
影響を及ぼす可能性のある経口ニキビ治療薬イソトレチノインを避けるよう米国で
は注意喚起がなされているという(イソトレチノインは日本では未承認)。
Retinoic acid breakdown is required for proximodistal positional identity during axolotl limb regeneration
Nature Communications volume 16, Article number: 4798 (2025)
Open access Published: 10 June 2025
https://www.nature.com/articles/s41467-025-59497-5

7.赤ちゃんに優しく語りかけるのはヒトだけ?
 人類が「言語能力」を進化のどの時点で身につけたかという謎を解く大きな手が
かりを見つけた、とする研究成果が発表された。ヒトは乳児に絶えずしゃべりかけ
るが、ほかの類人猿はめったにそうしないことが、新たな研究で示された。ヒトの
際立った特徴のひとつは、幼い子供に対する大人の話しかけ方にある。赤ちゃん言
葉、あるいは専門用語でいう対乳児発話は、単語の繰り返し、音節の大げさな強
調、高く、歌うような声の調子を特徴とする場合が多い。この特徴的なパターン
が、幼い子供の注意を引きつけるのに効果的なのだという。
The evolution of infant-directed communication: Comparing vocal input across all great apes
Science Advances 25 Jun 2025 Vol 11, Issue 26 DOI: 10.1126/sciadv.adt7718
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt7718

8.琵琶湖の「ビワマス」は新種だった
 琵琶湖博物館は、長くアマゴと同種とされてきたビワマスが新種である、と発表
した。同館や京都大などの研究グループが近縁種との違いを明らかにし、学名を
Oncorhynchus biwaensis,(琵琶湖で取れるサケ属の魚)」とした。ビワマスはサケ
科の淡水魚で、成長すると体長が50〜60センチになる。1925年に米国の研究者に
よってアマゴと同種の魚と見なされるようになったが、1970年代以降の研究でア
マゴとビワマスの違いが見いだされるようになっていた。研究グループはビワマス
を分析し、目の形や特定の部位のうろこの枚数など複数の形質を近縁種のアマゴや
ヤマメと比較した結果、明確な違いを見いだした。新種記載論文には新種の特徴が
詳細に示されている。瑞陵高校生物部にいた日比野友亮君(現:北九州市立自然
史・歴史博物館学芸員)が琵琶湖のSilurus tomodai(標準和名:タニガワナマ
ズ)を2018年に新種記載したときの論文を、講義で「種」を説明するときに回覧
しているが、多くの学生はその詳細な記載に驚く。今回の論文を資料として使うの
も良いと思う。
The Biwa salmon, a new species of Oncorhynchus (Salmonidae) endemic to Lake Biwa, Japan
Ichthyological Research Published: 21 June 2025
https://link.springer.com/article/10.1007/s10228-025-01032-z
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000257.000058617.html

9.中国の竜人はデニソワ人?
 シベリアのデニソワ洞窟で発見された小さな指の骨のDNAが2010年に調べら
れ、「デニソワ人」というヒト集団の存在が示された。1933年には、中国北東部で
発掘された風変わりな頭骨は未知の古人類のものとされ、頭骨が発見された黒竜江
省の竜江(Long Jiang)県にちなんで「ホモ・ロンギ(Homo Longi)」と命名し、
「竜人(Dragon Man)」という愛称で呼ばれていた。このたび、竜人はデニソワ人
である可能性が高いとする論文が中国の研究チームによって発表された。竜人につ
いてはDNAの解析から「顔」も推定されており、そうなると、デニソワ人の
「顔」が分かったことになる。
The proteome of the late Middle Pleistocene Harbin individual
Science18 Jun 2025
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu9677
‘Dragon Man’ skull belongs to mysterious human relative
https://www.science.org/content/article/dragon-man-skull-belongs-mysterious-human-relative


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2025年 6月
1.三毛猫の毛色を決める遺伝子の解明
2.トランスポゾンによる進化の仕組みを発見
3.「構造色」で輝く海藻の新た種の発見
4.猿橋賞に名古屋大の上川内あづさ教授
5.7/28 東京都立大学生命科学科リカレント講座[再掲]
6.8/9 日本生物教育会(JABE)第79回全国大会 新潟大会[再掲]
7.古代DNA展-日本人のきた道- 名古屋でも開催
8.現在配布・貸出可能な教材

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1.三毛猫の毛色を決める遺伝子の解明
 三毛猫の体毛のうち黒と茶(オレンジ)の毛色を決める遺伝子を、九州大など
の研究チームが世界で初めて特定し、Current Biology に発表した。白い毛の遺
伝子は常染色体にあることは分かっており、三毛猫はほぼすべて雌であり、黒と
茶(オレンジ)の毛色を決める遺伝子がX染色体にあることは約120年前に想定
されていた。雌の2本あるX染色体のうち1本が不活性化され、残り1本だけ働
くことは約60年前に解明されていたが、具体的な遺伝子は特定されていなかっ
た。研究チームは公開されているDNAデータを調べ、Arghap36遺伝子を特定し
た。活性化している方のX染色体にあるこの遺伝子に約5000塩基分の欠失があ
ると、オレンジの色素「フェオメラニン」が合成され、欠失がないと黒い色素
「ユーメラニン」が合成される。雌の場合、2本のX染色体のうち不活性化され
るのはランダムに決まるので、一方が欠失のないArghap36遺伝子で、もう一方
が欠失のあるArghap36遺伝子をもつ場合には、黒と茶の毛が混じることにな
る。研究チームは研究費の一部として2022~23年にクラウドファンディングを
行い、約600人から1000万円超を集めたという。この研究は、同じ遺伝子を特
定した米スタンフォード大の研究チームの論文とともに、2024年11月に査読前
の研究発表サイトである「bioRxiv」に掲載され、その時も話題となっていた。今
回、査読後の論文として2つの研究チームの論文が同時に掲載された。
A deletion at the X-linked ARHGAP36 gene locus is associated with the orange coloration of tortoiseshell and calico cats
Current Biology  Online May 15, 2025 Open access
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00391-4

Molecular and genetic characterization of sex-linked orange coat color in the domestic cat
Current Biology Online nowMay 15, 2025 
https://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(25)00552-4

2.トランスポゾンによる進化の仕組みを発見
 トランスポゾン(「ジャンピング遺伝子」という言い方もあるようだ)は、ゲノ
ムの中や染色体の間を移動する遺伝子で、脊椎動物では進化の過程で感染したレ
トロウイルスのDNA配列の残骸と考えられている。トランスポゾンは自分自身
のDNA配列を切り出して他のDNA配列に挿入(カット&ペースト)したり、
自分自身と同じDNA配列を合成し、他のDNA配列に転移(コピー&ペース
ト)したりする。名古屋大学などの研究グループは、多様な脊椎動物の遺伝子情
報を解析し、ヒトのゲノムの中では全ゲノムの約17%という最も大きな割合を持
つ代表的なLINE-1(L1)というトランスポゾンに着目したところ、鳥類・爬虫
類では別のタンパク質を作ることを発見した。ミオシンを形成するタンパク質の
ひとつであるミオシン軽鎖4の遺伝子は6つのエキソン(1~6)に分割されてお
り、スプライシングによって配列順に連結されて作られたmRNAからタンパク
質・ミオシン軽鎖4が合成される。鳥類・腿虫類のゲノムではエキソン2とエキ
ソン3の間にLINE-1が入り込んでいる。4種の爬虫類の選択的スプライシング
を調べたところ、心臓では正常なタンパク質・ミオシン軽鎖4が作られるが、精
巣では選択的スプライシングによって、LINE-1とエキソン(3~6)がつながった
mRNAが作られ、別のタンパク質(ライオシンと命名された)が作られることが
分かった。選択スプライシングが組織によって異なる例として授業でも使えそう
なネタである。
Birth of protein-coding exons by ancient domestication of LINE-1 retrotransposon
Genome Res. 2025. Published in Advance May 8, 2025, doi:10.1101/gr.280007.124
https://genome.cshlp.org/content/early/2025/04/29/gr.280007.124
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/05/post-819.html

3.「構造色」で輝く海藻の新た種の発見
 顔料(色素)ではなく、物体の微細構造によって生成される色は、一般に構造
色と呼ばれていて、真珠貝、メキシコアワビ、ヤコウガイなどの貝殻や、モルフ
ォチョウのような蝶での羽がよく知られている。シャボン玉やコンパクトディス
ク(CD)などの表面でもみられる。神戸大学と北海道大学の研究者が、紅藻カギケ
ノリAsparagopsis taxiformis(カギノリ目)の頂端付近の組織が、褐藻クジャク
ケヤリSporochnus dotyiやオパールと同様のメカニズムで構造色を示すことを発
見した。さらに、カギケノリは、構造色をもたらす光屈折小体に含まれるブロモ
フォルムなどの有機ハロゲン化合物が、摂食忌避物質として作用することで、構
造色が警告色(アポセマティズム)として作用している可能性が示された。光屈
折小体は、生殖器官を含む藻体の他の部分でも白っぽい外観をもたらすことか
ら、外敵からのカモフラージュ(保護色)の作用もあると考えられるとのこと。
Structural colour in the brown algal genus Sporochnus (Sporochnales, Phaeophyceae)
Hiroshi Kawai &Taizo Motomura
European Journal of Phycology Volume 59, 2024 - Issue 3 Pages 271-278
Received 30 Jan 2024, Accepted 01 Apr 2024, Published online: 07 May 2024
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09670262.2024.2340020
https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20250506-66624/

4.猿橋賞に名古屋大の上川内あづさ教授
 優れた女性科学者に贈られる「猿橋賞」が、名古屋大学大学院理学研究科教授
の上川内(かみこうち)あづささんに贈られた。「猿橋賞」は、地球科学者の猿
橋勝子博士が退官記念事業の一環として1980年設立した「女性科学者に明るい
未来をの会」(中西友子会長)が、自然科学の分野で顕著な研究業績を収めた女
性科学者に毎年贈っているもので、今年で45回となる。第26回 (2006) には名
古屋大学大学院理学研究科の森郁恵教授に贈られている。上川内教授の授賞理由
は「昆虫脳における聴覚情報処理原理の解明」で、ショウジョエバエの聴覚情報
処理の仕組みを解明し、ヒトと似た機構があることを見いだしたことが評価され
た。上川内教授は1975年、東京都生まれ。東京大学薬学部卒業、同大大学院薬
学系研究科博士課程修了後、独ケルン大学留学等を経て、2011年9月から現
職。私もコロナ前に名古屋大学に週に1-2回出入りしていたときに生協食堂で
上川内さんを時折お見かけした。名古屋大学交響楽団OB会の係の学生(岐阜高
校出身で現在はM2)が上川内研究室にいるが、彼女によると同研究室は人気が
高く、研究室配属時の競争率が高いとのことだ。
https://saruhashisho.wordpress.com/thisyear2025./

5.古代DNA展-日本人のきた道- 名古屋でも開催
 6月15日まで東京の国立科学博物館で開催されている「古代DNA展-日本人
のきた道-」 「鳥」展にひき続き、名古屋市科学館でも開催される。
[HPより]遺跡から発掘された古代の人々の骨に残るごく僅かなDNAを解読
し、人類の足跡をたどる古代DNA研究。近年では技術の発展とともに飛躍的な
進化を遂げ、ホモ・サピエンスの歩んできた道のりが従来想像されていたよりも
はるかに複雑であったことが分かってきました。本展では、日本各地の古人骨や
考古資料、高精細の古人頭骨CG映像などによって、最新の研究で見えてきた遥
かなる日本人のきた道と、集団の歴史が語る未来へのメッセージを伝えます。
https://ancientdna2025.jp/
名古屋展 は7月19日(土)~9月23日(火・祝) 名古屋市科学館
https://www.ncsm.city.nagoya.jp/visit/attraction/special_exhibition/dna.html

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2025年 5月
1.メンデルのエンドウ豆に関する100年来の遺伝学の謎がついに解明
2.被子植物の種子に栄養を送るしくみの解明
3.パーキンソン病の治療にiPS細胞
4.6種の類人猿の完全なゲノム配列を公開
5.細菌の酸素代謝は地球の大酸化イベントより前に出現した
6.太陽系外に生命由来の化学物質?
7.ボノボのコミュニケーションは人間の言語に近い?
8.デニソワ人は台湾にもいた
9.向精神薬による汚染は野生のサケの回遊行動を変える
10.1万3000年前に絶滅した「ダイアウルフ」を再現!?
11.国立感染症研究所・感染研市民公開講座の動画アーカイブの公開
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1.メンデルのエンドウ豆に関する100年来の
 遺伝学の謎がついに解明

 メンデル(Gregor Johann Mendel、1822-1884)は、修道院の実験圃場で約
28,000本のエンドウPisum sativumを栽培した。それらの交配実験の結果から遺
伝の法則を発見し、1865年にブリュン自然協会で発表を行い、翌年の1866年に
論文Versuche über Pflanzen-Hybriden(植物雑種に関する実験)が出された。彼
が注目したエンドウの7つの形質は、種子の形(丸としわ)、子葉の色(黄色と
緑色)、種皮の色と花の色(すみれ色の種皮ですみれ色の花と白色あるいは灰色
の種皮で白色の花)、莢の形(ふくれとくびれ)、莢の色(緑色と黄色)、花のつ
き方(腋性と頂性)、草丈(高いと低い)であった。(注 「種皮の色と花の色」
については、日本の教科書では「種皮の色」となっていることが多いが、海外の
ものでは「花の色」が多い感じがする-西郷私見)
 このうち、以前の研究で4つの形質の遺伝子 (種子の形R、子葉の色I、種
皮・花の色A、花のつき方Le )については特定されていた。そのうち種子の形R
については、アミロペクチンの生成に関わる酵素の遺伝子による(「しわ」では
欠損)ことが特定されている。今回、英国などの研究チームにより、残りの3形
質についても遺伝子が特定された。研究チームは、3,500以上のエンドウ豆の変
異体を保有する英国のジョン・イネス・センター(JIC)の遺伝資源ユニットと
公開されているゲノムデータセットを用いて、約700種のエンドウのゲノムを収
集し、そのなかの約1億5,500万個の一塩基多型(SNP)を探索した(一遺伝子
による遺伝なのでSNPに注目した)という。結果は論文のExtended Data Fig. 1 
にまとめられているので、是非ご覧下さい。「メンデルの論文で書かれている形
質は7つ、エンドウは2n=14だから、それぞれの遺伝子は別々の染色体にあるの
で、連鎖はなかった」と言われていたこともあったが、それは間違い。
Century-old genetics mystery of Mendel’s peas finally solved
https://www.nature.com/articles/d41586-025-01269-8
Genomic and genetic insights into Mendel’s pea genes
Nature  Published: 23 April 2025  Open access
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08891-6

2.被子植物の種子に栄養を送るしくみの解明
 被子植物の受精では、めしべの先端についた花粉が花粉管を伸ばし、胚珠に核
を送り込む。受精すると、種子は母体から栄養を受け取って成長していくが、受
精した時にだけ、種子に栄養が送られるようになると分かっていたが、どのよう
に制御されているのかなど、植物の種子形成の基本的なメカニズムは不明のまま
だった。名古屋大学の研究チームは、花粉管を試薬で染めて、胚珠の状態を観察
し、受精に成功する時と失敗する時との違いに注目した。その結果、受精が失敗
すると種子に栄養が送られる道の入り口がカロース(花粉の伸長でも重要な役割
を果たす多糖類)でふさがれるが、受精が成功するとカロースが分解されて種子
に栄養が送られることがわかった。この機構により、実らない種子に栄養を送っ
てしまうムダをなくすようになっている。
Fertilization-dependent phloem end gate regulates seed size
CurrentBiolog ArticleOnline April 07, 2025  Open access
Fertilization-dependent phloem end gate regulates seed size: Current Biology
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20250408_nubs.pdf

3.パーキンソン病の治療にiPS細胞
 京都大の付属病院とiPS細胞研究所は、iPS細胞から作製した神経細胞をパー
キンソン病患者に移植する臨床試験(治験)で、6人中4人の症状が改善したと
発表した。神経細胞を供給した製薬会社「住友ファーマ」(大阪市)が一定の条
件や期限を定めた再生医療製品の承認を申請する予定で、早ければ今年度中の承
認を目指している。パーキンソン病は脳内の神経伝達物質ドーパミンを生み出す
神経細胞が減少し、運動機能に障害が生じる病気であり、京大病院などは2018~
23年、50~69歳の患者の男女計7人に対し、iPS細胞から作製したドーパミン
神経細胞500万~1000万個を脳の中央部に移植。経過を2年間観察し、有効性
や安全性を調べた。その結果、7人とも重篤な副作用は見られなかった。有効性
を検証した6人では、いずれも移植後にドーパミン神経の活動が活発化し、脳内
のドーパミン量が増加。うち4人で運動機能の改善が見られた。若く症状が軽い
患者の方が改善効果が大きい傾向がみられるという。
Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson's disease
Nature Article Open access Published: 16 April 2025
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08700-0
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/250417-000000.html

4.6種の類人猿の完全なゲノム配列を公開
 ヒト以外の類人猿のゲノムを理解することは、ヒトの進化やヒトと他の類人猿
との違いについての考える上で非常に重要である。国際的な研究チームによっ
て、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、ボルネオオランウータン、スマトラオラン
ウータン、シャマンテナガザルの6種の類人猿のゲノムがこれまで以上に詳細に
解析された。これによって各種ごとに770〜1,482の新しい遺伝子や、これまでア
クセスできなかったゲノム領域に存在する異常なDNA構造があることも発見さ
れた。異常なDNA構造とは、二重らせん配列に従わない珍しい構造で、遺伝子
転写やDNA複製などの重要な細胞プロセスの調節に役割を果たしていると推定
できるとのことで、これらの構造の一部は、癌などの病気との関連も考えられ
る。いずれにしても、最新技術や手法によって、これまでよりヒトや類人猿の理
解が深まることは間違いなさそうである。
Complete sequencing of ape genomes
Nature Open access Published: 09 April 2025
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08816-3

5.細菌の酸素代謝は地球の大酸化イベントより前に出現した
 現在の酸素が比較的豊富に存在する大気は、約23億年前にシアノバクテリア
(藍藻)による酸素発生型光合成の発達によって形成されたとされている。 沖縄
科学技術大学院大学(OIST)と海外の大学等研究機関の研究グループによって、
地球の大気が酸素で満たされるかなり前に、細菌は酸素に適応していた可能性が
あることが示された。研究グループは細菌分類体系にまたがる1007のゲノムを用
いて、細菌の種系統樹を作成し、細菌ゲノムにおける酸素適応の明確な進化的痕
跡を確認し、嫌気的ライフスタイルから好気的ライフスタイルへの移行した系統
を予想した。これにより、細菌における酸素使用の進化を太古までたどれるよう
になった。この研究結果によれば、初期の好気性細菌は「大酸化イベント
(GOE)」の前(約32億2000万年前~32億5000万年前)に出現し、酸素発生
型光合成が出現する前に、いくつかの系統(おそらくシアノバクテリアの祖先)
において好気的代謝が進化したと考えられるという。
A geological timescale for bacterial evolution and oxygen adaptation
Science, 4 Apr 2025 Vol 388, Issue 6742
DOI: 10.1126/science.adp1853
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adp1853

6.太陽系外に生命由来の化学物質?
 英ケンブリッジ大などの研究チームは、地球から約120光年離れた太陽系外惑
星「K2―18b」の大気中で、地球上では生物によって作られる化学物質を検出し
たと発表した。チームは太陽系外に生命が存在する可能性を示す「これまでで最
も強い証拠だ」としている。この惑星の重さは地球の8.6倍、大きさは2.6倍
で、恒星の周りを回っている。NASAが2021年に打ち上げたジェームズ・ウェ
ッブ宇宙望遠鏡を使った観測で、地球では海洋植物プランクトンなどが生成する
硫黄化合物ジメチルスルフィドとジメチルジスルフィドを検出した。ただし、今
回の発見だけでは「K2-18bに独自の生命、あるいはその兆候を発見した」とは
言えず、可能性を示したと考える方が良さそうだ。
New Constraints on DMS and DMDS in the Atmosphere of K2-18 b from JWST MIRI
The Astrophysical Journal Letters, Volume 983, Number 2
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/adc1c8
Strongest hints yet of biological activity outside the solar system
https://www.cam.ac.uk/stories/strongest-hints-of-biological-activity

7.ボノボのコミュニケーションは人間の言語に近い?
 最も人間に近縁なボノボPan paniscus は鳴き声でコミュニケーションをとっ
ているが、その複雑な構成の意味構造は人間の言語の決定的な特徴に似ていると
いうことが示されたという。ドイツなどの研究チームは、コンゴのボノボ保護地
域で400時間ボノボの声を拾うとともに、そのときの発声者と他の個体との行動
をナレーションとしてテープに保存し、これを元にボノボの発声する言葉の言語
意味空間の分布を作成した。ボノボには7種類の発声型が存在し、これらを単独、
あるいは2種類を組み合わせてコミュニケーションに使っていることを示した。
これから先は私には難解なので原論文に当たってほしい。
Extensive compositionality in the vocal system of bonobos
Science , 3 Apr 2025, Vol 388, Issue 6742 pp. 104-108
DOI: 10.1126/science.adv1170
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adv1170

8.デニソワ人は台湾にもいた
 デニソワ人はシベリアのデニソワ洞窟で見つかった骨や歯の断片から、ゲノム
分析によって2010年に存在がわかった旧人。存在を示した独マックス・プラン
ク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ博士は22年にノーベル生理学・医学賞
を受けた。ネアンデルタール人とは別系統の旧人とされるが、これまでに見つか
った化石は断片的で、骨格など姿かたちはほぼ不明。ゲノム研究から、アジア東
部、特に南東部の現代人の遺伝情報にはデニソワ人由来の要素があり、現代日本
人のゲノムにもわずかだが、デニソワ人との交雑の痕跡が残っている。ホモ・サ
ピエンスと数万年前に交雑したと考えられているが、デニソワ人の化石はこれま
でシベリアとチベットでしか見つかっていなかった。日本、台湾とデンマークの
国際共同研究チームが人骨のたんぱく質配列などを分析し、澎湖(ほうこ)人と
名づけられていた台湾最古の人類化石が、旧人のデニソワ人の男性だったと発表
した。
Fossil jawbone reveals mysterious Denisovans lived in ancient Taiwan
First confirmed fossil found outside Siberia and the Tibetan Plateau shows the archaic human also lived in hot climates
Science Vol. 388, No. 6743 10 Apr 2025
https://www.science.org/content/article/fossil-jawbone-reveals-mysterious-denisovans-lived-ancient-taiwan
A male Denisovan mandible from Pleistocene Taiwan
Science 10 Apr 2025 Vol 388, Issue 6743 pp. 176-180
DOI: 10.1126/science.ads3888
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ads3888

9.向精神薬による汚染は野生のサケの回遊行動を変える
 クロバザム (clobazam) はベンゾジアゼピン系の抗てんかん薬である。不安障
害の治療に使用される一般的な薬であるが、下水に流れた場合は下水処理を経て
も完全に除去されず、河川に流れ込む。その結果、世界の河川や水路で広く検出
されているが、この物質によって野生の大西洋サケの回遊行動が変わっていると
いう。クロバザムが大西洋サケの脳に蓄積すると、群れ行動を減少させること
で、ダムを素早く通過させる効果がある。通常、群れで移動するサケはダム付近
で遅延しますが、クロバザム曝露個体は単独行動が増えるため素早くダムを通過
し、結果的に海への到達率が高まることになる。この研究結果は医薬汚染物質に
よる広範囲な生態学的影響があることを示すが、この行動変化が長期的にみて
どのような影響があるかについては現在のところ不明とのこと。
Pharmaceutical pollution influences river-to-sea migration in Atlantic salmon (Salmo salar)
Science 10 Apr 2025 Vol 388, Issue 6743 pp. 217-222
DOI: 10.1126/science.adp7174
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adp7174

10.1万3000年前に絶滅した「ダイアウルフ」を再現!?
 米バイオ企業コロッサル・バイオサイエンスは、1万3千年ほど前に絶滅した
イヌ科の動物「ダイアウルフ」を〝復活〟させたと発表した。化石のDNA解析
から、この種に特有の遺伝的特徴を特定。現存する近縁種ハイイロオオカミの細
胞の遺伝子を改変し、白い体毛などを再現した3匹の子どもをイヌの代理母に産
ませた。同社はこの手法でマンモスなど絶滅動物に近い動物をつくることを目指
しており、今回が初の成功例だとした。現代の環境への適応力を増すような改変
も視野に入れているという。同社の科学者たちは、これを「脱絶滅(de-
extinction)」と呼んでいるが、他の専門家は「これはダイアウルフとは言えな
い」としている。ダイアウルフの完全なゲノムは存在しない。同社の科学者チー
ムはダイアウルフの1万3000年前の歯や7万2000年前の頭蓋骨など、現存する
最も状態の良い化石からできるだけ多くのDNAを抽出し、欠けている部分を補
ったという。ダイアウルフを特徴づけていたと考えられる大柄な体格、白い被
毛、筋肉質な四肢といった形質を備えた子オオカミを作り出すために、14の遺伝
子に対して合計20カ所の遺伝子編集を施すことが決定されたという。たしか
に、ダイアウルフのようなものができたことは間違いなさそうだが・・・・。
コロッサル社はこの研究について査読付きの学術誌に発表しておらず、それが科
学的な評価の混乱を招いている。ラムCEOによると、同社は今後、論文を提出
する予定だという。
https://colossal.com/the-return-of-the-dire-wolf/
https://time.com/7274542/colossal-dire-wolf/

11.国立感染症研究所・感染研市民公開講座の
 動画アーカイブの公開

 令和4年~令和6年度の感染研市民公開講座( 知らなかった、感染症の「へ
ぇー、そうだったんだ!」)の動画アーカイブが公開された。
諸事情で公開のできなかった回もあるようだが、公開可能な動画はすべて公開さ
れているとのこと。また、ライブ配信時の言い間違いなどの補足・修正、動画を
見やすくするための微細な修正などもなされているようだ。拡散歓迎とのこと。
https://www.youtube.com/channel/UCpU239nW2vW4pN-qnTeF6oQ

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2025年 4月
1.「光遺伝学」で視力回復へ
2.近畿にアマガエルの境界線
3.メダカの産卵は真夜中から始まる
4.アボカドの栽培は7500年前から
5.温暖化で泥炭地の炭素吸収能力が向上
6.本の紹介:ウミウシを食べてみた
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1.「光遺伝学」で視力回復へ
 神経細胞などの働きを光で制御する「光遺伝学」の手法を活用し、目の難病
「網膜色素変性症」で失われた視覚の再生を目指す遺伝子治療薬の臨床試験(治
験)を始めた、と慶應義塾大学と名古屋工業大学の共同研究グループが発表し
た。光遺伝学の臨床応用は国内初という。この難病は光を受け取って神経の信号
に変える働きをする網膜の視細胞が障害を起こし、徐々に機能を失う進行性の失
明難病。網膜にある双極細胞と呼ばれる神経細胞にキメラロドプシンを作る遺伝
子を届け、視細胞の代わりに光の検知を担わせるというもの。「光遺伝学(オプ
トジェネティクス)」は光感受性タンパク質をコードする遺伝子を用いて生体細
胞に光反応性を付与する技術。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2025/2/13/250213-1.pdf

2.近畿にアマガエルの境界線
 愛知教育大学と京都大学の研究チームは、アマガエルが近畿地方を境界とし
て、東西2種類に分かれていることを突き止めた。アマガエルについては2016
年、広島大学とアジア・欧州の6カ国の国際研究チームにより、近畿地方と中国
地方の境目あたりで東西二つのグループに分けられることが遺伝子解析でわかっ
ていた。今回、愛教大らのチームの研究で境界線がより明確になったという。大
英博物館が収蔵するニホンアマガエルDryophytes japonicusの基準標本を観察し
たところ、体の模様などから西日本産が真のニホンアマガエルであり、東日本産
を新種「ヒガシニホンアマガエル」D. leopardusとして記載するという。
Genetic and morphological variation analyses of Dryophytes japonicus (Anura, Hylidae) with description of a new species from northeastern Japan
Zootaxa  Vol. 5590 No. 1: 20 Feb. 2025
https://www.mapress.com/zt/article/view/zootaxa.5590.1.3
https://www.aichi-edu.ac.jp/files/press_20250221.pdf

3.メダカの産卵は真夜中から始まる
 モデル生物の一つ「ミナミメダカ」の産卵は、野外において真夜中の午前0時
ごろから始まっていることを、大阪公立大学と岐阜大学の研究グループが明らか
にした。従来、メダカは日の出前後1時間くらいに産卵すると考えられてきた
が、それを覆す発見となった。モデル生物の野外下での生態は、研究室内の様子
と異なることを示している。アクションカメラと赤色光ライトを使って撮影した
動画の解析によるというのだから、児童・生徒の「自由研究」に近い感じがする
の私だけか?
Medaka (Oryzias latipes) initiate courtship and spawning late at night: Insights from field observations
PLOS One  Published: February 12, 2025
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0318358
https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/press/20250213_1.pdf

4.アボカドの栽培は7500年前から
 日本でアボカドがスーパーで見かけるようになったのは比較的最近のことであ
ると思うが、アメリカ大陸の人々にとっては、アボカドPersea americanaは数千
年前から重要な食物だった。米国の研究チームが中米ホンジュラスにある古代の
岩陰遺跡で発掘された化石を分析したところ、人類は1万1000年前にはアボカ
ドを食しており、7500年前にはアボカドを積極的に栽培していたことが判明し
た。つまり、中南米の先住民の間ではトウモロコシよりも前にアボカドの栽培が
行われていたということになり、トウモロコシの品種改良にアボカドの栽培のノ
ウハウが用いられていたことを示す。研究チームは、栽培化される過程でアボカ
ドの果皮が厚く、種は大きくなり、食用部分が増えたことを突き止めた。研究チ
ームによると、これらの変化はより大きな果実を好む人間による栽培化を示して
いるという。
Early evidence of avocado domestication from El Gigante Rockshelter, Honduras
PNAS  March 3, 2025  122 (10) e2417072122
https://doi.org/10.1073/pnas.2417072122
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2417072122

5.温暖化で泥炭地の炭素吸収能力が向上
 フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究者らは、泥炭地に生息するシア
ノバクテリアや藻類などの微細な光合成生物の光合成活動が、将来のCO₂排出量
の最大14%を相殺できる可能性があることを示した。このモデルは、現地実験と
IPCCの予測シナリオに基づいており、泥炭地のCO₂吸収能力が気温上昇により
増加する可能性を示しているという。しかし、研究者らはこのプロセスを気候予
測に組み込むにはさらなる研究が必要であり、泥炭地の保全とCO₂排出削減が引
き続き重要であると指摘している。
Microbial photosynthesis mitigates carbon loss from northern peatlands under warming
Nature Climate Change (2025)  Published: 20 March 2025
https://www.nature.com/articles/s41558-025-02271-8

6.本の紹介:ウミウシを食べてみた
 ウミウシを食べてみた  中野理枝 (著)   文一総合出版2025/1/18
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-7257-1/Default.aspx
広告代理店に勤務する普通の会社員が、会社をやめてフリーランスライターとし
て独立、ついには沖縄に移住して大学院に進学した!人ひとりの人生をそこまで
狂わせた、ウミウシとダイビングの面白さ・不思議さ・奥の深さに迫るウミウシ
私エッセイ、ここに爆誕!珍奇なウミウシたちのエピソードや基礎知識が満載
で、ウミウシの入門書としてもおすすめ。(文一総合出版のHPより)
 例によって、名古屋市立図書館の新着案内から見つけて借りてきた。ウミウシ
オタクが博士号まで取って「専門家」になったという話。タイトルの「ウミウシ
を食べてみた」はその中の一部にすぎないが、考えて見れば色とりどりのウミウ
シはヤドクガエルと同じく「警告色」なので、毒はないものの美味いはずはない
(「食べてもまずいよ!」と色で警告している)。「もっと前に食べた人がいる」と
いう話で、昭和天皇とのインタビューに記録があるという。[昭和天皇]「イソギ
ンチャクは、あまり私は食べなかったが、ウミウシやアメフラシは食べられるか
ら、食べてみた」 [記者]「味の方は?」 [昭和天皇]「あまりよくない
な」・・・「『信長のシェフ』によると、地中海にイソギンチャクを食べる地域が
あるようです」と書かれているが、有明海沿岸地方では味噌汁の具や味噌煮で
食べられていることはよく知られていることだ。

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2025年 3月
1.人間の脳には「スプーン1本分」のナノプラスチックが
2.クマノミはなぜイソギンチャクに刺されないのか?
3.鳥類の起源 2000万年近くさかのぼる?
4.「ゆで卵の作り方」が論文に
5.タコの腕はそれぞれ独立して動いている
6.太古の昔、生命を育んだ海は「緑色」だった!?
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1.人間の脳には「スプーン1本分」のナノプラスチックが
 マイクロプラスチックとナノプラスチックの両方をあわせて「MNP」と呼ぶよう
になってきた。先月も紅茶のティーバッグから出るナノプラスチックの論文を紹介し
たが、今度は脳に溜まっている量に関する論文が出た。米国の研究チームによると、
2024年初頭の検視解剖で収集された死体の脳サンプルを用いた測定で、腎臓や
肝臓よりも7~30倍の数のプラスチック小片が含まれて、 平均約45~50歳の正常
な人の脳組織で1グラムあたり480μgのプラスチックのであった。これは脳の重量
の0.48%であり、標準的なプラスチックスプーン1本分に相当するという。この量は
2016年のサンプルと比較して、約50%増えているとのこと。研究者らはまた、生前
に認知症と診断されていた12人の脳に、健康な脳に比べて3~5倍のプラスチック
片を発見したという。8年前と比較して増加している原因や認知症との関係について
ははっきり分かっていないが、他の臓器より脳に多い原因として、消化器官などから
入ったナノプラスチックは、血液脳関門で脳に行く量を減らせるが、鼻から入ったも
のは直接脳に到達することが考えられる。生物濃縮の例を見ると、ある程度の量を超
えたら何かが起きることは考えられる。年齢による比較も行っている。高齢者ほど多
くなるわけではないことから、何らかの方法で排出もされているらしい。
Bioaccumulation of microplastics in decedent human brains
Nature Medicine (2025)  Open access  Published: 03 February 2025
https://www.nature.com/articles/s41591-024-03453-1

2.クマノミはなぜイソギンチャクに刺されないのか?
 クマノミとイソギンチャクの関係は、共生の例として有名だが、なぜクマノミがイ
ソギンチャクの有毒の触手に刺されないのかは100年以上謎のままだった。沖縄科
学技術大学院大学(OIST)ほかの研究チームによって、クマノミ類が進化の過程で、
共生するイソギンチャクの刺胞(毒針細胞)の発射を引き起こさないように、皮膚粘
液中のシアル酸の値を極めて低く保てるようになったことを発見した。研究者らは、
イソギンチャク自体も粘液中に糖化合物であるシアル酸を持たないことを突き止め
た。これは、おそらく自らを刺さないようにするためだと考えられる。この発見は、
クマノミ類が宿主であるイソギンチャクと同様の防御戦略を採用している可能性を
示唆している。
Anemonefish use sialic acid metabolism as Trojan horse to avoid giant sea anemone stinging
BMC Biology volume 23, Article number: 39 (2025)
Open access Published: 15 February 2025
https://bmcbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12915-025-02144-8
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2025/2/15/marine-mystery-solved-how-anemonefish-avoid-stings-their-sea-anemone-hosts

3.鳥類の起源 2000万年近くさかのぼる?
 中国南部で、およそ1億5000万年前のジュラ紀の地層から現代の鳥類と同じ尾の
部分の骨が短い鳥の化石が世界で初めて見つかった。現代の鳥類の体の構造は、これ
までおよそ1億3000万年前の白亜紀に出現したとされていたが、今回の発見は、そ
の起源が2000万年近くさかのぼることを示している。
 1800年代にドイツで化石が見つかった「始祖鳥」はジュラ紀に生息していた最古
の鳥として知られているが尾の部分の骨が長く、恐竜と同じ特徴も併せ持っていた。
The lost long tail of early bird evolution
https://www.nature.com/articles/d41586-024-04212-5
Earliest short-tailed bird from the Late Jurassic of China
Nature volume 638, pages441–448 (2025)  Published: 12 February 2025
https://www.nature.com/articles/s41586-024-08410-z

4.「ゆで卵の作り方」が論文に
 「完璧なゆで卵調理法」が、イタリアの研究チームによって発表された。流体力学
の技術を元に開発されたのは「周期的調理法」。100℃の熱湯が入った鍋と、30℃の水
のボウルを用意し、卵を2分ごとに熱湯―水―熱湯―……、と移し替え、これを8回
繰り返し、32分で最高のゆで卵ができるという。ゆで時間の長い「固ゆで卵」は、黄
身がパサパサになり、ゆで時間の短い「半熟卵」は白身が完全に固まりにくい。60~
70℃で1時間ゆでる「真空調理」では、白身が完全に固まらない。研究チームは、新
しい調理法で作ったゆで卵について。味などの官能検査だけでなく、核磁気共鳴
(NMR)装置などを用いた分析も行った。その結果、黄身は滑らかであることが判
明、調理中に黄身が約67℃で一定に維持されるのが理由だという。イグ・ノーベル賞
級の研究と言えるが、「30分以上もかけてゆで卵を作るか」については疑問が残る。
・・と思ったが、昨日2/28の朝日新聞の投書欄に広島県の小学生の投書で、「やって
みた」というのが載っていた。「さすがに美味しく、家族にも好評だった」とのこと。
Periodic cooking of eggs
Communications Engineering volume 4, Article number: 5 (2025)
Open access Published: 06 February 2025
https://www.nature.com/articles/s44172-024-00334-w

5.タコの腕はそれぞれ独立して動いている
 タコの腕は、まるで8本がそれぞれ意思を持っているかのように自在に動く。獲物
を捕まえたり、狭い隙間に入り込んだり、さらには物を器用に持ち運んだりすること
も可能である。シカゴ大学の研究チームは、タコの腕の神経回路がセグメント化され
ていることによって、8本の腕と数百個の吸盤を巧みに操ったり、周囲の環境を探求
したり、物体をつかんだり、獲物を捕まえたりするのを可能にしているという研究結
果を発表した。タコの腕には、腕の中を前後軸方向に走る太い神経索(ANC: axial
nerve cord)があり、ニューロンはそこに集中している。 ANCは「すべての腕の中
心を走る脊髄に相当」し、タコの腕がちぎれても動き続けるのは、ANCが脳の働き
をしているからだという。吸盤の神経もまた、ANCから出ていて、各吸盤の縁とシ
ステマチックにつながっていて各吸盤を独立して動かしたり、形を変えたりすること
ができる。吸盤には触覚受容体が詰まっていて触れたものの味や匂いを感じることも
できるという。
Neuronal segmentation in cephalopod arms
Nature Communications volume 16, Article number: 443 (2025)
Open access Published: 15 January 2025
https://www.nature.com/articles/s41467-024-55475-5

6.太古の昔、生命を育んだ海は「緑色」だった!?
 宇宙から考えてみる「生命とは何か?」入門 (14歳の世渡り術)  松尾 太郎 (著) 
河出書房新社 (2023/10/23) https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309617572/
でも紹介されている「緑色の海」仮説であるが、このたび、論文となって表舞台に踊
りでた。シアノバクテリアの共生によって現在の植物の葉緑体が形成されたとされて
いるが、シアノバクテリアは光合成色素としてフィコシアニンを使っているものが多
い。ガリガリ君に使われている青(水色)色素はスピルリナというシアノバクテリア
から抽出されたものである。現在の緑藻や植物が行っている光合成はクロロフィルに
よる主に赤色と青・紫色の光を吸収して行われる(葉が緑色に見える)。葉緑体がで
きる前にシアノバクテリアの時代が存在したなら、それが存在した海の色は緑色だっ
たはずだ、という考えである。火山活動の影響(酸化鉄が多く含まれる)で緑色に見
える鹿児島県・薩南諸島の硫黄島周辺の海には、緑の光を利用できるシアノバクテリ
アが多く存在しているという。
Archaean green-light environments drove the evolution of cyanobacteria’s light-harvesting system
Open access Published: 18 February 2025
Nature Ecology & Evolution (2025)
https://www.nature.com/articles/s41559-025-02637-3
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/02/-25.html

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2025年 2月
1.紅茶のティーバッグから大量のナノプラスチック
2.植樹で夜間の気温が上がる場合もある?
3.新しい解析方法でゲルマン民族の移動の詳細がわかった
4.都市の光はオウトウショウジョウバエの繁殖を助長する
5.アウストラロピテクスは肉を大量には食べていなかった
6.~2/24「鳥展」
7.本の紹介:世界一シンプルな進化論講義
8.本の紹介:進化論の知られざる歴史
9.本の紹介:動物関係の本4件
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1.紅茶のティーバッグから大量のナノプラスチック
 もう何が出てきても驚かないぞ! という感じの報告がまたまた出た。スペイ
ンの研究グループが、ナイロン6、ポリプロピレン、セルロースで作られた市販
のティーバッグから出たナノプラスチックを調べたところ、最も多くの微粒子が
検出されたポリプロピレン製からは、なんと1mLあたり約12億個(平均サイズ
136.7nm)のナノプラスチックが検出されました。 セルロース製からは約1億
3500万個(平均サイズ244nm)、ナイロン6製からも約818万個(平均サイズ
138.4nm)の微粒子が検出されています。 ティーカップ1杯200mlとすると、
ポリプロピレン製のティーバッグの紅茶(緑茶でも)からは12億個×200なの
で、合計2400億個のナノプラスチックを紅茶と一緒に飲むことになる。研究チ
ームは、ティーバッグから放出されたプラスチック粒子に特殊な染料で色を付け
て、3種類のヒト腸管細胞に24時間接触させる実験を行なった。 その結果、ポ
リプロピレン製、セルロース製、ナイロン6製でも粒子が腸管細胞に取り込まれ
ることが判明したという。紅茶やお茶を入れるときにはポットや急須を使った方
が良いということになるが、大気中、海水、ペットボトルの水、イルカの息、ヒ
トの血液など、至るところからナノ・マイクロプラスチック検出されているの
で、「今さら」何をやってもムダなのかもしれない。
Teabag-derived micro/nanoplastics (true-to-life MNPLs) as a surrogate for real-life exposure scenarios
Chemosphere Volume 368, November 2024, 143736
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0045653524026377

2.植樹で夜間の気温が上がる場合もある?
 都市部に街路樹を植えれば、昼間の気温を大幅に下げられる。しかし、夜間に
は逆に気温が上昇してしまう可能性があることを、ケンブリッジ大学の研究チー
ムが明らかにした。研究グループは、17の気候帯にまたがる世界110都市を対象
とした182本の研究結果を抽出して、2010年から2023年までの調査データを総
合的に分析した。その結果、街路樹には歩行者レベルの高さにおける日中の気温
を最大で12度も下げる効果があることが判明した。この気温低下は、樹木によ
る太陽光の遮断、葉の気孔を通じた水分蒸発、そして樹木の葉による気流の変化
によってもたらされるという。しかし、夜になると樹冠が地表から宇宙へ向かう
長波放射を閉じ込める場合があり、空力抗力(空気の力学的な抵抗)と、熱や乾
燥ストレスに反応して葉の表面の気孔が閉じる「気孔閉鎖」により、最大で1.5
度の気温上昇を引き起こすこともあるという。気温への影響は気候帯や都市構造
によって大きく異なることも判明したとのことである。
Cooling efficacy of trees across cities is determined by background climate, urban morphology, and tree trait
Communications Earth & Environment volume 5, Article number: 754 (2024)
Open access  Published: 10 December 2024

3.新しい解析方法でゲルマン民族の移動の詳細がわかった
 英国の研究タームによって、Twigstats と呼ばれる解析方法が開発され、これ
を用いて主に中世ヨーロッパの民族の移動が詳細に調べられた。その結果、西暦
一千年紀(1世紀から10世紀)の前半には、スカンジナビア系関連の祖先系統の
少なくとも2つの異なる流れが西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパに
広がっていたことが観察された。対照的に、西暦一千年紀の後半には、これらの
祖先系統が地域的に消滅したか、大幅に混合したことが祖先系統パターンから示
唆された。スカンジナビアでは、西暦800年頃までに祖先系統の大規模な流入が
あったことが示され、この時期に、バイキング時代の人々の大部分は、初期鉄器
時代の人々には見られなかった中央ヨーロッパに関連する集団の祖先を持ってい
た、などがわかったという。
High-resolution genomic history of early medieval Europe
Nature volume 637, pages118–126 (2025) OpenAccess
https://www.nature.com/articles/s41586-024-08275-2

4.都市の光はオウトウショウジョウバエの繁殖を助長する
 果樹害虫の一つであるオウトウショウジョウバエDrosophila suzukiiは、暗い
郊外より都市の光が多い環境下のほうが繁殖に有利であることが、千葉大学の研
究グループによって明らかされた。害虫駆除のために光を減らすなどの工夫をす
ると効果があると考えられる。オウトウショウジョウバエは都市にも郊外にも存
在し、桜の木の実やサクランボ、ブルーベリー、ラズベリーなどに産卵する。研
究グループは、東京の中心部と、それらと同じくらいの緯度に位置する千葉県房
総半島の木の実からオウトウショウジョウバエの卵を採集。ハエを研究室内で育
てる際、都市における夜間の人工の光と同程度の明るさの照明を付けた群と、照
明を付けない群に分け、成虫にどのような特徴が生じているか観察した。その結
果、東京と千葉の両者とも、光の下で育った群の方がオスは求愛活性が減少し、
メスの産卵数はおよそ2倍になった。オウトウショウジョウバエは一度の交尾
で、メスは十分に産卵できるほどの精子をオスから受け取る。そのため、オスの
求愛活性が低い方がメスは産卵に集中できるためにたくさんの子孫を残すことが
できる。実験の結果は、人工光のある環境の方が全体的な個体数を増やせること
を明らかにしている。
Urban–rural diversification in response to nighttime dim light stress in Drosophila suzukii
Biological Journal of the Linnean Society, Volume 143, Issue 4, December 2024, blae109,
https://doi.org/10.1093/biolinnean/blae109
https://academic.oup.com/biolinnean/article-abstract/143/4/blae109/7917084
https://www.chiba-u.jp/news/research-collab/post_481.html

5.アウストラロピテクスは肉を大量には食べていなかった
 南アフリカのスタルクフォンテイン化石遺跡で発掘された7つのアウストラロ
ピテクスの標本から、その地のアウストラロピテクスは草食性で肉は大量には食
べていなかったことが分かったという。欧米の研究チームは、アウストラロピテ
クスを含む43の動物化石と現代のアフリカの哺乳類のエナメル質の窒素同位体
を分析し(N15/N14)、既知の肉食動物と草食動物におけるこれらの同位体の特
徴を明らかにした。その結果、肉食動物群と草食動物群ではエナメル質の同位体
は明らかに違い、アウストラロピテクスのエナメル質は草食動物群のそれとかな
り似ていたことが判明した。
Australopithecus at Sterkfontein did not consume substantial mammalian meat
Science 16 Jan 2025 Vol 387, Issue 6731 pp. 309-314 DOI: 10.1126/science.adq7315
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq7315

6.~2/24「鳥展」
特別展「鳥 ~見応えある企画が満載!ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統
~」が、上野の国立科学博物館で行われている。
https://toriten.exhn.jp/
「600点以上の標本が集結する圧巻の特別展です!」「最新の研究成果にもとづ
き、新たな視点で鳥類へアプローチ!」「5つの「特集」と、23の「鳥のひみ
つ」で鳥を深掘り!」「世界初挑戦!史上最大の飛べる鳥「ペラゴルニス・サン
デルシ復元プロジェクト」が「見どころ」とのこと。
 実は、この企画は3/15(土)~6/15(日) に名古屋市科学館でも、行われる。た
だし、「約400点の標本が集結する、圧巻の特別展」となっているので、標本は
東京の2/3しか来ないようだ。
http://www.ncsm.city.nagoya.jp/visit/attraction/special_exhibition/toriten_nagoya.html

7.本の紹介:世界一シンプルな進化論講義
世界一シンプルな進化論講義 生命・ヒト・生物――進化をめぐる6つの問い
(ブルーバックス B 2282) 更科 功 (著) 2025/1/23
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000405825
 著者の更科氏の専門は分子古生物学。「禁断の進化史 人類は本当に「賢い」の
か」(NHK出版新書)、「化石に眠るDNA 絶滅動物は復活するか」(中公新書)な
どの著者であり、「カラー図解 進化の教科書」全3巻 (講談社ブルーバックス)の
共訳者でもある。高校現場で「進化をどう扱ったらよいのか」という声があがっ
ていることを見透かしたようなタイミングで出た。大学で講義をしていると、「進
化=進歩」「進化の頂点に立つのがヒト」などと誤解している学生も多く、高校で
進化について正しく学ぶことの重要性を感じる。もともと、evolutionには「進
歩」というニュアンスもあって、ダーウィンも誤解を恐れてevolutionの使うの
を避けてtransmutationを用いていた。「種の起原」でも最終版である第6版では
じめてevolutionが使用されたことがそれを示している。「世界一シンプル」かど
うかは分からないが、同じようなボリュームの本は他にもあり、「ダーウィンの進
化論はどこまで正しいのか? 進化の仕組みを基礎から学ぶ」(河田雅圭著 光文
社新書)、「ダーウィンの呪い」(千葉 聡著 講談社現代新書)などと合わせて読
むと良いと思う。

8.本の紹介:進化論の知られざる歴史
進化論の知られざる歴史: ダーウィンとその〈先駆者〉たち レベッカ・ストット (著),
高田 茂樹 (翻訳)   作品社2024/10/23 
https://sakuhinsha.com/nonfiction/30465.html
「訳者あとがき」が備わった本格的な訳本。原題はDarwin's Ghosts: In Search of
the First Evolutionists で、2013年の出版である。著者のストット氏は1964年生
まれで英国の大学で文学を教えており、退職後は作家としてダーウィンに関する
著作もいくつか出している。子供の頃に「ダーウィン」について興味を持った
が、牧師の父に聞くことができないような家庭環境であったようだ。父の不在時
にこっそり書斎に入ってブリタニカ百科事典のDの巻を開くと、なんとダーウィ
ンの項目のページは切り取られていた。後年、父から祖父が破棄したと聞かされ
たという。そんなことが逆にダーウィンに興味を持つきっかけとなったようだ。
 ダーウィンが「種の起原」を著すきっかけになったのは、マレー群島からアル
フレッド・ラッセル・ウォレスから届いた手紙であることはよく知られている。
1959年に初版が世に出ると、その内容について賛否両論の意見が噴出したことも
周知の事実である。しかし、内容とは別に、ダーウィンの元に「先行研究につい
て何も触れられていない」という批判が多数寄せられたことはあまり知られてい
ない。「自分も何年も前に出版した本に同じ考えを書いていた」というものや、
「○○の著作に同様の考えが載っている」などである。当然、ビュッフォン、ラ
マルクやエラズマス・ダーウィンに関する指摘もあったが、なかには、アリスト
テレスにまで言及するものもあり、ダーウィンは対応に苦慮したようである。ダ
ーウィンがそれらのリストを作ったところ30人を超えていたという。ダーウィ
ンはそれらに対して一つ一つ検証して、無視できるものとそうでないものに仕分
けし、第3版の序文に「歴史的経緯」historical sketch として加えることにし
た。本書はダーウィンがリストアップした人物の中から何人かに光を当てたもの
で、イギリス、フランスだけでなく、アリストテレスから中世イスラムの碩学ジ
ャーヒズ、レオナルド・ダ・ヴィンチにまで及んでいる。なかなかの良書で、原
書の書評のなかには、page turner(読み出すと止まらない)と記した評者もいたとか。
「種の起原」の各版については、https://darwin-online.org.uk/ 
で、原典を見ることもできる。

9.本の紹介:動物関係の本4件
「ヘビ学: 毒・鱗・脱皮・動きの秘密」 (小学館新書 481)  ジャパン・スネー
クセンター (著) 2024/12/2
https://www.shogakukan.co.jp/digital/098254810000d0000000
「ヘビ学」となっているが、学問的な扱いは一部のみで「ヘビ大好き!」ぐらい
のタイトルが適当だと思う。「毒」のところはまずまず。
「海の変な生き物が教えてくれたこと」 (光文社新書) 清水浩史 (著) 
2024/12/18
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334105112
 風変わりな海の生物を10種とりあげて、解説していて面白いが、「コバンザメ
の生き様は人間社会でもうまくいく」的な、多分に擬人化されているのがやや気
になる。ゴマモンガラは著者の2ヶ月後に私も黒島研究所訪れたのだが、そのと
きには気づかなかったのが残念。
「はじめて学ぶ哺乳類 山本俊昭 (著)」 文一総合出版 2024/11/29
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-6536-8/Default.aspx
 哺乳類に関する概説書で、入門書としては良。哺乳類の特徴として、「授乳」、
「胎生」、「歯」、「体毛」、「恒温」、「肺呼吸」、2心房2心室の「心臓」の8つを挙
げている。ちなみに、2010年に国立科学博物館で行われた「大哺乳類展-陸のな
かまたち」の図録では、「体温を一定にたもつ」、「子を産みお乳で育てる」、「耳
小骨」、「複雑な歯」、「成長のパターン」の5つとなっている。
「密かにヒメイカ: 最小イカが教える恋と墨の秘密」 (新・動物記 10) 佐藤成
祥 (著)  京都大学学術出版会 2024/10/23
https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814005574.html
 著者の佐藤成祥氏は、ヒメイカ研究で有名。ヒメイカとその研究についてよくわかる。

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2025年 1月
1.ウイルスの増殖を動画で見る
2.新型コロナウイルスの細胞内増殖機構を解明
3.抗菌薬が効かない「耐性菌」への対策への第一歩?
4.タコは体色変化で大量のエネルギーを消費する
5.「種を吐く」テッポウウリのメカニズム
6.梅毒はアメリカで発生しコロンブス時代にヨーロッパに持ち込まれた
7.現生人類に流入したネアンデルタールゲノムの歴史
8.150万年前のヒト科の種の共存を示す証拠
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1.ウイルスの増殖を動画で見る
[Volvox:02152]日生教第78回全国大会2024東京大会参加報告(西郷3)
で紹介したが、その動画が公開された。「手動PCR実験」の講師の東京理科大学の
武村政春先生が、自身の研究についての紹介のなかで、「通常のウイルスは光学顕微
鏡でみることができないが、巨大ウイルスなら100倍対物レンズの使用で見ること
が可能。そこで、生徒実験・観察に利用できないか? ということで、動画を撮影
してみた」とのことでその動画が示された。巨大ウイルスの一種ミミウイルス(粒
径0.75μm)がアカントアメーバに感染し、増殖して細胞がウイルスでいっぱいに
なり、やがて細胞が崩壊してウイルスが外に放出される、という様子がよく分かる。
粒径0.75μmなので、100倍対物では点にしか見えないが、ウイルスの増殖が分か
る優れものである。アカントアメーバは病原性があり、そのまま、高校の実験で使
うことはできないが、この動画は教材としては非常に有効であると感じた。武村先
生に動画を講義で使うことができないかとお願いしようと思っていたところへ、日
生教の手動PCR実験の担当をされた東京大学教育学部附属中等教育学校の野村洸
真先生から「論文になったよ」との連絡を頂いた。
 ウイルスの増殖はハーシー・チェイスの実験(大腸菌とT2ファージ)でも出てく
るがイメージしにくいものだ。一般のウイルスは小さいので電子顕微鏡での観察と
なるが、切片の観察では動画にはならない。巨大ウイルスを使うことで実現できた
もので、非常に利用価値の高いものだと思う。論文には武村先生の大学での講義で
見せたときの学生の反応も載っていて、非常に有効であることも示されている。
 論文の後ろの方のSUPPLEMENTAL MATERIAL(補足資料)に動画が5つある。
S1(56秒 感染後1.8時間から3.7時間)、S2(66秒 感染後3.7時間から6時間)、
S3(80秒 感染後7.7時間から11.5時間)、S4(66秒 感染後13.7時間から15.7
時間)、S5(59秒 動画S4に写っているミミウイルスに感染したアカントアメーバ
細胞の動画)
 最初は活発に動いているアカントアメーバが感染後に動きを止め、内部にミミウ
イルスが増えてくるのが分かる。感染後14時間後には細胞内はミミウイルスであふ
れ、ついには破裂してウイルスが拡散する様子がよく分かる。S1からS4まで連続
して見ても5分以内なので、まずは解説なしで見せて、学生・生徒に感想などを聞
いたあと、解説を加えながらもう一度見るというのが効果的かなと思う。パンデミ
ックの再来への備えのためにも、高校生、大学生に是非見せたい動画である。これ
らの動画を公表してくださった武村先生に感謝したい。
Visualization of giant Mimivirus in a movie for biology classrooms
Journal of Microbiology & Biology Education Vol. 25, No. 3
https://doi.org/10.1128/jmbe.00138-24
https://journals.asm.org/doi/10.1128/jmbe.00138-24

2.新型コロナウイルスの細胞内増殖機構を解明
 新型コロナウイルスは細胞で増殖する際、小胞体とゴルジ体の中間に存在する小
胞小管クラスター(ER-Golgi intermediate compartment: ERGIC)で子孫ウイルス
粒子を形成する。ERGICは袋状の膜構造を持ち、ERGIC膜上で形成された子孫ウ
イルス粒子はその内腔へと出芽し、小胞を介して細胞表面へと輸送され、細胞外へ
と放出された後に次の標的細胞に感染する。子孫ウイルス粒子の小胞輸送はウイル
ス増殖に必須のステップであるが、その分子機構はこれまで明らかにされていなか
った。京都大学と理化学研究所などの研究グループは、子孫ウイルス粒子を輸送す
る小胞には特徴的なタンパク質がコートされていること、さらに免疫電子顕微鏡法
により、このコートタンパク質が coatomer complex I(COPI 複合体)であること
を示した。COPI 複合体の構成因子である COPB2 の発現を抑制するとCOPI 複
合体の機能が阻害され、新型コロナウイルスの産生が著しく低下することも示され
た。増殖のしくみの解明は、対ウイルス薬の開発につながることであり、この成果
は、COPI 複合体を標的とした新型コロナウイルスの創薬開発に貢献すると期待さ
れる。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-12-03-2
Coatomer complex I is required for the transport of SARS-CoV-2 progeny virions from the endoplasmic reticulum-Golgi intermediate compartment
ASM Journals mBio https://doi.org/10.1128/mbio.03331-24

3.抗菌薬が効かない「耐性菌」への対策への第一歩?
 抗菌薬が効かない「耐性菌」の対策は世界的な課題になっているが、肺感染症や
敗血症などを起こす緑膿菌は酸素が不足した環境下では活動が不活発になり、「バイ
オフィルム」と呼ばれる密集した塊を作り、薬への耐性を持つことが知られていた。
しかし、どの程度活動が低下すると耐性を獲得するのかは詳しく分かっていなかっ
た。日本の物質・材料研究機構やアメリカのカリフォルニア工科大学の研究チーム
は、緑膿菌がエネルギーを消費する際の微弱な電気の変化を精密に計測できる新た
な装置を開発し、細菌の活動レベルを詳しく評価することに成功した。研究チーム
は「バイオフィルム」の状態を再現するため、窒素ガスで満たした装置の中で緑膿
菌の活動レベルを調べたところ、エネルギーの消費が通常の1000分の1以下とな
り生命活動の大部分が止まっていることが分かった。この状態では活動している細
菌に作用する多くの抗菌薬が効かなくなっていた一方で、細菌の周りにある「細胞
膜」に作用するタイプの抗菌薬は効果を示したということだ。
増殖しない「冬眠状態」のバクテリアを調べる新しい技術
https://www.nims.go.jp/press/2024/11/202411150.html
Mechanistic study of a low-power bacterial maintenance state using high-throughput electrochemistry
Cell Volume 187, Issue 24 p6882-6895.e8November 27
DOI : 10.1016/j.cell.2024.09.042

4.タコは体色変化で大量のエネルギーを消費する
 タコが体色変化をすることは知られているが、この変化には大量のエネルギーの
消耗が伴い、ヒトにとっては「23分間のランニング」に匹敵することが解明された。
タコの場合、体色変化は色素胞と呼ばれる特殊な皮膚細胞によって引き起こされる。
色素胞は、色素で満たされた小さく柔軟な袋だが、周囲に15~25本の筋繊維が放射
状に接続していて、車輪のスポークとハブに似た構造になっている。これらの筋繊
維が弛緩しているとき、色素胞は極小の点にまで収縮し、これによりタコの体は白
く見える。一方、筋繊維が収縮すると、色素胞は拡張され、色素粒子が皮膚の小区
画に一様に広がり、こうして体に色がつく。つまり、体色変化には筋収縮が伴って
いて、エネルギーを消費することになる。米国の研究チームの実験によると、平均
的なタコは、全身の体色を変化させるのに、1時間あたり219マイクロモルの酸素
を消費することがわかった。これは、タコが休息時にその他すべての身体機能(消
化、呼吸、体液循環、臓器機能など)に消費するエネルギーに匹敵するという。
High energetic cost of color change in octopuses
Proceedings of the National Academy of Sciences 121(48):e2408386121
November 18, 2024 https://doi.org/10.1073/pnas.2408386121

5.「種を吐く」テッポウウリのメカニズム
 テッポウ「ユリ「ではありません。私も最初間違えていて戸惑いました。テッポ
ウウリは葉に細かい毛をもち、小さい黄色い花を咲かせる。7cmほどの果実をつけ、
これが熟すると、汁と一緒にタネを噴出。タネが飛ぶスピードは最大秒速20mほど
で、10mも飛ばすことができる。米大学の研究チームは、数学モデル、ハイスピー
ドカメラ、CTスキャナーにカメラと、ありとあらゆる手段を使ってタネ噴出のメカ
ニズムを調査した。タネ噴出の数週間ほど前から、テッポウウリは汁をため、かな
り圧がかかった状態になり、噴出前日には果実から茎へと粘汁が移動し、果実が45
度に傾き、茎がより長く太く固くなる。この茎が外れると、果実が反対方向に回転
し勢いよくタネを噴出。 タネが飛ぶ方向、噴出のスピードはタイミング次第だとい
う。
Uncovering the mechanical secrets of the squirting cucumber
November 25, 2024
121 (50) e2410420121
https://doi.org/10.1073/pnas.2410420121

6.梅毒はアメリカで発生しコロンブス時代にヨーロッパに持ち込まれた
 古代 DNA 解析を通して、過去の歴史的な定説の真偽を明らかにする研究は、こ
れまでもいろいろあったが、ドイツの研究チームによって、梅毒に罹患していた古
代人から原因菌であるトレポネーマの DNA を分離して解析が行われ、梅毒がコロ
ンブス時代にアメリカからヨーロッパに持ち込まれたという通説が正しいことを明
らかにされた。DNAの研究がこんなところでも使われているという例がさらに加
わったことになる。
Ancient genomes reveal a deep history of treponemal disease in the Americas
Nature (2024) Published: 18 December 2024
https://www.nature.com/articles/s41586-024-08515-5

7.現生人類に流入したネアンデルタールゲノムの歴史
 ネアンデルタール人と我々現生人類が同じ場所に生きていた時代、交雑が行われ、
そのとき流入したネアンデルタールゲノムは我々のゲノム中に維持されていること
は、これまでのゲノム研究から明らかになっているが、これまでネアンデルタール
人と現生人類の交流は2波に渡って起こったとされていた。ドイツと米国の研究チ
ームにより、ヨーロッパからアジアに至るまでの過去50,000年間の300を超える
ゲノムを網羅したゲノム解析が行われ、交雑はおそらく5万年から6千年ぐらいの
間に起こり、このあと現生人類は多様化しながら世界各地に分布したことが判明し
た。今回解析した中で最も古い45,000年前の現生人類のネアンデルタールゲノムは、
その後の現生人類にのこるネアンデルタールゲノムとははっきり異なっており、
6000年という長い期間に起こった交雑の中の一部のネアンデルタールゲノムだけが
生き残っていると言えるという。導入されたネアンデルタールゲノムは、流入が止
まると自然に薄まっていく。しかし、現代の人間に残っているのは全ネアンデルタ
ールゲノムの6割程度で、これが薄まって人類に散らばって存在している。これは散
らばっている遺伝子を集めたときの数字で、一人一人の個人に残るネアンデルター
ルゲノムはたかだか2%程度だ。もちろん時代を遡るとこの割合は増加するが、交雑
後100世代で急速に各個人のネアンデルタールゲノム比率は低下しており、3万年
前にはすでに3−6%になっているという。
Neandertal ancestry through time: Insights from genomes of ancient and present-day humans
Science 13 Dec 2024 Vol 386, Issue 6727 DOI: 10.1126/science.adq3010
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adq3010

8.150万年前のヒト科の種の共存を示す証拠
 新たに発見された古代人の足跡は、約150万年前にケニアのトゥルカナ盆地にあ
る湖畔のぬかるみを少なくとも2種のヒト科が同時に通行していたことを示してい
る。この地域に複数のヒト科の種族が共存していたことを示す物理的証拠である。
共存はこれまで、あちこちに散らばった化石の年代が重複していることからの推測
でしかなかった。今回、その足跡から得られた歩き方や立ち方についての情報に基
づいて、その2種はホモ・エレクトス(Homo erectus)とパラントロプス・ボイセ
イ(Paranthropus boisei)だという考えが示された。これは、更新世のヒト科の2種
類の二足歩行パターンが同じ足跡表面に見られた初めての証拠である。
Footprint evidence for locomotor diversity and shared habitats among early Pleistocene hominins
Science 28 Nov 2024 Vol 386, Issue 6725 pp. 1004-1010
DOI: 10.1126/science.ado5275
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado5275